コンプリート・シャーロック・ホームズ
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新しく知り合いになった人物は実に慎重に水キセルの管を巻き上げ、カーテンの後ろから、襟と袖口に黒い毛皮がある非常に長い飾り紐つきコートを取り出した。相当暑苦しい夜だったにも関らず、彼はこのボタンをきちんと止め上げた。正装の仕上げとして、彼は耳を覆う、ヒダがぶら下ったウサギ皮の帽子を被り、よく動く不健康な顔以外はどこも見えなくなった。

「私は健康を害しやすいので」彼は通路を先導しながら言った。「どうしても用心しないといけないんです」

辻馬車が外で我々を待っていた。我々の予定は明らかに事前に準備されていたようで、御者はすぐに急ぎ足で馬車を発車させた。サディアス・ショルトは車輪がガタガタ言うよりも大きな声でずっとしゃべっていた。

「バーソロミューは賢い奴です」彼は言った。「彼が財宝のありかを見つけたことをどう思います?彼はそれが家の中のどこかにあるという結論に達していました。ですから、彼は家の立体空間を全部計算し、あらゆる場所の寸法を一インチたりとも不明箇所がないように測りました。特に、彼は建物の高さが74フィートだという事を見つけました。しかし、それぞれの部屋の高さと穴を掘って確かめたその間の厚みをすべて足し合わせても、合計が70フィート以上にはなりませんでした。4フィート未計算の部分がある。これは建物の一番上でしかありえない。そのため、彼は一番上の階の木摺としっくいの天井に穴を開けました。そして彼は、予想通りその上に別の屋根裏部屋を見つけました。そこは封印されていて、誰も知りませんでした。その中央、二本の垂木の上に宝箱が置かれていました。彼は穴からそれを降ろし、今もその部屋に置いてあります。彼の計算によると、宝石の価値は50万ポンド*は下らないということです」

この莫大な金額を聞いて、我々は目を見開き、お互いに見つめあった。もし我々が彼女の権利を確保できたなら、モースタン嬢は、困窮した家庭教師からイギリスで最も豊かな相続人に変わるだろう。忠実な友人の立場としては、間違いなくこの知らせに大喜びするべきだった。しかし、言うのも恥ずかしいが、私は身勝手な気持ちでいっぱいになり、心は鉛のよう重くなった。私は口ごもりながら、たどたどしくお祝いの言葉を軽く述べると、その後、意気消沈して頭をうなだれ、新しい知人のお喋りが耳に入らなかった。彼は明らかに病的な健康ノイローゼだった。私は彼が絶え間なくその病状を全開にしているのを、ぼんやりと意識していた。彼は、数え切れないほどのインチキ薬の、 ―― 彼はそのうちの何種類かをポケットの皮袋に入れて持ち歩いていた ―― 、組成と効能に関して、情報を乞い求めていた。私がその夜言ったことを、彼が全部忘れていると信じたい。ホームズが断言したところによると、私が、二滴以上のヒマシ油を服用すると大きな危険があるが、一方で、鎮静剤としてストリキニーネの大量摂取を勧めていたのを、聞いたらしい。それはともかく、私は辻馬車がガクンと止まり、御者が飛び降りて扉を開けた時、本当にやれやれと思った。

「モースタンさん、これがポンディシェリ・ロッジです」サディアス・ショルトは彼女が馬車から出るのに手を貸しながら、こう言った。