コンプリート・シャーロック・ホームズ
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私は暴力行為の犯罪者として告訴されているこの男性を関心をもって見つめた。彼は亜麻色の髪をし、顔立ちは良く、くたびれた冴えない服装をし、恐れおののいた青い瞳で、綺麗に髭をそり、か弱そうで敏感な口をしていた。歳は27歳前後だったろうか、紳士にふさわしい服と態度だった。夏用の薄いコートのポケットから署名のある書類の束が突き出ていて、それで否応なしに職業が分った。

「与えられた時間を活用しなければ」ホームズが言った。「ワトソン、もしよかったらその新聞を取って、問題の記事を読んでくれないか?」

私は、マクファーレンが引用した激しい見出しの下に続く思わせぶりな記事を読み上げた。

「昨日の夜遅くまたは今朝早く、ロウワ・ノーウッドで重大な犯罪につながる懸念のある事件が発生した。ジョナス・オルデイカー氏はその郊外では著名な住人で、彼は長年その地方で建築業を営んでいた。オルデイカー氏は独身で年齢は52歳、ディープ・デン通りの端にあるシデナムという地のディープ・デン・ハウス在住。彼は妙な態度の人物という評判であり、秘密主義で内向的だった。ここ数年は実質的に事業から引退しているが、事業でかなりの富を蓄えたといわれている。しかし家の裏には、まだ小さな材木置き場があり、昨夜12時頃、その材木の山の一つが燃えているとの通報があった。消防車がすぐに現場に駆けつけたが、乾燥した材木はすさまじい勢いで燃えており、全体が燃え尽きるまで大火災を消し止めることは出来なかった。この時点まで、この火災はただの事故のように思われていた。しかし重大な犯罪を思わせる新しい証拠が見つかった。火災が起きた施設の主人が行方不明になっていることが判明して、驚きの声が上がった。調査が続けられ、彼は家から姿を消したことが分かった。彼の部屋を調査して判明したのは、ベッドには寝た形跡がなく、部屋に設置されていた金庫が開けられていて、多数の重要な書類が部屋中に散乱し、そしてすさまじい闘争の痕跡があったことである。部屋にごくわずかながら、血痕があり、オーク材製の歩行用杖の持ち手にも血の染みが認められた。オルデイカー氏はその夜遅く寝室で訪問者と会っていたことが判明している。そして見つかった杖はこの人物の所有物と特定された。その人物は、ロンドンの若い事務弁護士で名前はジョン・ヘクター・マクファーレン、イースト・セントラル・グレシャム・ビル426、グラハム・マクファーレン社の専務である。警察は、極めて説得力のある犯罪の動機に関する証拠を入手したと確信している模様で、最終的には、今後驚くような展開があることは疑問の余地がない」
「続報。記事を印刷所に送る際の噂によると、ジョン・ヘクター・マクファーレン氏は実際は、既にジョナス・オルデイカー氏殺人の容疑で逮捕されているか、少なくとも逮捕状が発行されたことは確実である。ノーウッドの捜査において一層の、そして不吉な展開があった。不幸な建築士の部屋における格闘の痕跡に加えて、新たに判明したのは寝室の両開き窓が、(部屋は一階にある)、開かれていて、重量物が材木の山まで引きずられていったような痕跡が複数発見された事である。そして決定的な証拠として、火災の炭交じりの灰の中に炭化した遺骸が混じっていると断定された。警察は極めて世を震撼とさせる犯罪が行われたという見解で、被害者は自分の寝室で撲殺され、書類が強奪され、死体は貯木場に引きずって行かれてから、犯罪の痕跡をすべて隠蔽しようという目的で火が放たれたと考えられている。犯罪捜査の指揮は、経験豊かなロンドン警察のレストレード警部の手にゆだねられた。警部は著名となった活動力と機敏さで手がかりを追っている最中である」

シャーロックホームズは目を閉じ指先を合わせて、この注目すべき記事に耳を傾けていた。

「この事件は確かにいくつか興味深い点がある」彼は独特の気のない態度で言った。「まずどうしてあなたはいまだに自由でいられるのか伺ってよろしいですか?マクファーレンさん。これだけの証拠があれば、明らかにあなたを逮捕するには十分です」

「私は両親とブラックヒースのトリントン荘に住んでいます、ホームズさん。しかし昨夜は非常に遅くジョナス・オルデイカー氏と仕事があったので、ノーウッドのホテルに滞在し、そこから仕事に向かったのです。私は列車に乗ってあなたが今お聞きになったことを新聞で読むまで、この事件について何一つ知りませんでした。すぐに私は自分の立場が恐ろしく危険であることに気づき、この件をあなたの手にゆだねようと急いでやってきたのです。街の仕事場か自宅にいたなら間違いなく逮捕されていたでしょう。ロンドン駅から一人の男につけられています。間違いなく、・・・・ああ!なんだあれは?」