コンプリート・シャーロック・ホームズ
ホーム長編緋色の研究四つの署名バスカヴィル家の犬恐怖の谷短編シャーロック・ホームズの冒険シャーロック・ホームズの回想シャーロック・ホームズの帰還最後の挨拶 シャーロック・ホームズの事件簿
up arrow
left arrow ワトソン博士の日記の抜粋 5 ワトソン博士の日記の抜粋 6 岩山の男 1 right arrow

「いいか、よく聞け、バリモア!私が興味を持っているのは、君の主人だけだ。私はただ彼を助けるためだけにここに来ている。はっきり言ってくれ。胸騒ぎがするというのはどういうことだ」

バリモアは一瞬、まるで感情を表に出した事を後悔したか、自分の感情を言葉で表現するのが難しいと気づいたかのように、動揺した。

「ここで起きていることは何もかもそうです」彼は遂に雨が打ちつける荒野に面した窓に向かって手を振りながら叫んだ。「どこかで不正な事が行われています。そしてどす黒い悪事が計画されています。絶対に確かです!サー・ヘンリーがもう一度ロンドンに戻ることになれば、私は非常に嬉しい気持ちになるはずです」

「しかしお前は何がそんなに不安なのだ?」

「サー・チャールズの死を考えてみてください!検視官が何と言おうとも、あれほど恐ろしい事件はありません。夜の荒野の声を考えてみてください。金がもらえると言われても、日没後、荒野を通る男などいません。そんな場所に潜み、目を光らせ、待ち構えている奇妙な男を想像してみてください。あの男は何を待っているのでしょう?どういうつもりなのでしょうか?バスカヴィル家の誰にとってもいい事な訳がありません。そして、サー・ヘンリーの新しい使用人がこの館を引き継ぐ準備ができて、ここから一切手を引くことができれば、本当に嬉しいでしょう」

「その不審者のことだが」私は言った。「お前はその男について何か知っているのか?セルデンは何と言っているんだ?男の居場所や行動について知っているのか?」

「一度か、二度見かけたそうです。しかし得体のしれない男で、何も手がかりを残していません。最初は警官だと思ったのですが、すぐに個人的な目的があると分かりました。見たところ紳士風ですが、何をしているかは分かりませんでした」

「セルデンは、その男の住処はどこだと言っているんだ?」

「丘の中腹の古い家のどこかです、 ―― 昔の人間が住んでいた石の小屋です」

「しかし食事はどうしているんだ?」

「セルデンは彼が子供を使っている事に気づきました。その子供が彼のために必要な物を全て運んでいます。おそらくクーム・トレーシーで生活必需品を調達しているのではないでしょうか」

「ありがとう、バリモア。またいつか、もっと詳しく聞かせてもらうかもしれない」執事が出て行った後、私は暗い窓の側まで歩いて行き、雨が滴る窓から、流れていく雲と、風に吹かれて揺れる木々のシルエットを覗き込んだ。部屋の中にいてさえ、これだけひしひしと荒天が感じられる夜だ。荒野の石の小屋の中ではもっと大変だろう。こんな天気の中、あんな場所に身を潜ませるというのは、どんな情熱や憎悪に駆り立てられているのだろうか。そして、このような試練に耐えねばならないとは、どれほど強烈な目的を持っているのだろうか。私をこれほど困惑させる問題の核心は、荒野の小屋の中に潜んでいるようだ。私はこの謎の核心に到達するために、出来る事は何でも直ちに実行に移そうと堅く決意した。

up arrow
left arrow ワトソン博士の日記の抜粋 5 ワトソン博士の日記の抜粋 6 岩山の男 1 right arrow