コンプリート・シャーロック・ホームズ
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このように促され、モーティマー医師はポケットから書類を取り出して、ホームズと私が前日の朝聞いたように事件の全体像を話した。サー・ヘンリー・バスカヴィルは非常に神経を集中して聞き入っていた。時々、驚いて叫び声を上げていた。

「なるほど。復讐の相続をしたわけですか」長い説明が終わると、彼は言った。「もちろん、その犬の話は子供の頃からずっと聞かされてきました。一族の中で知らないものはない話ですからね。これまでそれを真面目に受け取ったとはありませんでしたが。しかし叔父の死に関しては、・・・・何もかもが混乱して、どう考えてよいかわかりません。あなたもこれが警察の事件か聖職者の事件か、心を決めかねているようですね」

「そのとおりです」

「そんな折、私のホテルにこんな手紙が届くという事件が起きた。まさに、舞台装置が整ったようですね」

「荒野について、私たちよりもっと詳しく知っている人物がいるようですね」モーティマー医師は言った。

「同時に」ホームズは言った。「危険を予告しているということは、その人物はあなたに悪意を抱いていないようだ」

「もしくは、何らかの理由で、私を怖がらせて追い払いたいと思っている人物かもしれない」

「なるほど、確かにそういう可能性もある。モーティマー博士、こんなに色々と面白い解釈をできる事件を紹介していただき、本当にありがとうございます。しかし現実的な問題点として、今決めなければならないのは、サー・ヘンリー、あなたがバスカヴィル館に行べきかどうかです」

「行くべきではない理由があるのですか?」

「危険があるように思えるからです」

「危険なのはバスカヴィル家の悪魔でしょうか、それとも生身の人間に危険な人物がいるのでしょうか?」

「それはまだ分かりません」

「どちらにしても、私の答えは決まっています。ホームズさん、地獄のどんな悪魔も、地上のどんな人間も、私が先祖代々の家に行くのを引き止めることはできません。そしてこれを私の最終決断ととらえていただいて結構です」彼は、こう話している時、黒い眉を寄せ、顔を紅潮させた。バスカヴィル家の激しい気質が、最後の相続人にまで脈々と受け継がれてきた事は明らかだった。「とはいえ」彼は言った。「今聞いた話は、あまりにも突然で、よく考える時間がほとんどありませんでした。これはこの場で理解し決断するには、あまりにも大きな問題です。一人で静かに考えて決心する時間が必要です。ホームズさん、今11時半です。私はすぐにホテルに帰ります。あなたと、友人のワトソン博士に二時に来て頂き、昼食をご一緒してもらえないでしょうか。この事件をどう受け止めるべきかについて、もっとはっきり返答出来るようにしておきます」

「それで君の都合はいいかな、ワトソン?」

「もちろんだ」

「それでは後でお会いしましょう。辻馬車を呼びにやらせましょうか?」

「私は歩いて行きたいですね。この話を聞いて、かなり混乱してしまいました」

「もちろん、私も付き合うよ」彼のモーティマー医師が言った。

「では二時にまたお会いしましょう。さようなら」

訪問者が階段を降りて行き、玄関の扉がバタンと閉まる音が聞こえた。その瞬間、ホームズはけだるい夢想家から行動の男へと変貌を遂げた。