コンプリート・シャーロック・ホームズ
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朝までに天気は良くなっていた。ロンドンには薄暗いスモッグが漂っていたが、ぼんやりとした陽の光で明るくなっていた。私が下りてきた時、シャーロックホームズはすでに朝食に向かっていた。

「先に始めてすまないな」ホームズは言った。「オーペンショーの事件を調査するために、おそらく今日は非常に忙しくなりそうだからね」

「どういう手順で進めるつもりだ?」私は尋ねた。

「それは最初の調査によって大きく変わる。最終的にはホーシャムに行かなければならないかもしれない」

「まず、ホーシャムに行くんじゃないのか?」

「いや、シティからだ。ベルを鳴らせばメイドが君のコーヒーを運んでくるよ」

待っている間に、私はテーブルから開かれていない新聞を取り上げてざっと目を通した。ぞっとする大見出しが目にとまった。

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「ホームズ」私は叫んだ。「遅すぎたよ」

「え!」彼はコーヒーカップを下ろしながら言った。「悪い予感はしていた。何が起きたんだ?」冷静な口調だったが、動揺していることは見て取れた。

「オープンショーの名前を見つけた。見出しは『ウォータールー橋近くの悲劇』記事はこうだ」

「昨夜9時から10時まで、ウォータールー橋*の近くで任務についていたH分署のクック巡査は、助けを呼ぶ声と水に落ちる音を聞いた。しかし非常に暗く嵐も強かったので、何人かの通行人が手助けしてくれたものの、とても救出することは出来なかった。だが当局に通報があり、水上警察の力を借りて最終的に遺体が回収された。遺体のポケットから見つかった封筒から、ホーシャム近くに住むジョン・オープンショーという名前の青年だと確認された。彼はウォータールー駅の最終列車に乗るために急いでいて、慌てている上に非常に暗かったため、道を外れて河汽船用の小さな踊り場の角で足を踏み外したのではないかと推測されている。遺体には暴行の跡が無く、故人が不幸な事故の犠牲になったことに疑いはない。そして、この事故は当局に対し、川岸にある桟橋の状態を改善するよう求めることになるだろう」

ホームズはしばらく無言で座っていた。これまでホームズがこれほど落ち込み、動揺しているのは見たことがなかった。

「プライドを汚されたよ、ワトソン」長い沈黙の後、ホームズは遂に言った。「もちろん、僕のプライドなどたいしたものではない。しかし、間違いなく泥を塗られたよ。もう、これは僕自身の事件だ。だから、この悪党どもは必ず捕まえてやる。わざわざ僕に助けを求めてきてくれたのに、死に追いやってしまうとは!」ホームズは椅子からぱっと立ち上がり、動揺を抑えきれず、血色の悪い頬を赤らめ、長く細い手を神経質に握ったり開いたりしながら部屋の中を歩き回った。

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「なんてずる賢い奴らだ」ホームズは遂に叫び声を上げた。「どうやってオープンショー青年をあそこまでおびき出したんだろう?堤防は駅までの通り道にはない。あんな天気の夜でも、きっと橋は人が多すぎて、奴らは目的を果たせなかったのだ。よし、ワトソン、最後にどちらが勝つか見ていろ。早速、行動開始だ!」

「警察へ行くのか?」

「いや、僕自身が警察となる。僕が蜘蛛の糸で網を作れば、警察はそれでハエくらい取れるかもしらんが、それまでは何もできんよ」