コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「新しくやってきたのは、ライサンダー・スターク大佐に加えて、チンチラのような顎鬚を二重顎の折れ目から生やした、背の低い太った男で、ファーガソン氏と紹介されました」

「『こちらは私の秘書兼マネージャーです』大佐は言いました。『ところで、今しがたこの扉は閉めて行ったはずですがね。隙間風が寒くはなかったですか』」

「『いえ反対に』私は言いました。『部屋の中が少し蒸し暑かったので自分で扉を開けたんです』」

「大佐は疑わしそうな目つきで私を見ました。『それでは、そろそろ仕事を進めた方がよさそうだ』大佐は言いました。『ファーガソンと私が機械を見てもらうためにご案内しましょう』」

「『帽子を被っていた方がいいですよね』」

「『ああ、いえ、家の中にありますので』」

「『なんと、活性白土を家の中で掘っているのですか』」

「『いえ、いえ。圧縮しているだけです。まあ、ご心配なく。あなたにお願いしたいのは、機械を調べてどこが悪いか教えていただくだけですから』」

「大佐がランプを持って先頭に立ち、太ったマネージャと私はその後に続いて一緒に上階に行きました。迷宮のような古い家でした。廊下があり、通路があり、狭い曲がりくねった階段があり、そして小さな背の低い扉がありました。何世代もの間その上を通った人間によって敷居はくぼんでいました。一階より上は、絨毯も家具らしき物も全くありませんでした。壁から漆喰が剥がれ落ちて、体に悪そうな緑のカビから湿った空気が通り抜けていました。私は出来る限り平気な振りをしようとしましたが、あの女性の警告を忘れることは出来ませんでした。彼女の警告を無視したとは言え、私は二人の同行者には鋭い目を向けてました。ファーガソンはむっつりして口数の少ない男のようでした。しかしこの男が少ししゃべった言葉を聞いて、少なくともイギリス人だと言う事は分かりました」

「ライサンダー・スターク大佐は遂に一つの低い扉の前で止まりました。そこには鍵が掛かっていませんでした。中は同時に三人が入れないくらいの小さな四角い部屋でした。ファーガソンは外に残り、大佐は私を招き入れました」

「『私達は今』大佐は言いました。『実際に水圧機の中にいます。もし誰かがスイッチを入れれば、私たちにとって非常に嫌なことが起きるでしょうな。この小さな部屋の天井は、実際に下りてくるピストンの底面で、これが金属の床の上に物凄いトン数の力を掛けます。外に動力を伝える細い水のパイプが何本か通っていて、あなたがご存知の方法で力を増幅します。機械は最初は順調に動作しますが、途中で引っかかり、圧力が少し失われます。よければちょっと調べて、どうすれば直せるか教えていただけますか』」

「私は大佐からランプを受け取り、機械を非常に入念に調べました。それは実際巨大なもので、物凄い圧力を発生する能力がありました。しかし、外側をざっと見て、制御レバーを押してみるとシューッという音がしたので、一つのサイドシリンダーを通って水が少し逆流しているのがすぐに分かりました。詳しく調べると、ピストン棒の先に付けられている生ゴムのオーリングの一つが縮んで、動作する時に軸の内側に完全に密着していない事が判明しました。明らかにこれが圧力を失う原因でした。そのことを二人に指摘すると、彼らは私の説明を真剣に聞き、どのようにして直せばよいかという実務的ないくつかの質問をしました。その質問にはっきりと答えた後、私は機械室に戻り、好奇心を満たすためにじっくり見てみました。活性白土の話がただのでっち上げだというのは、一目瞭然でした。そんなおかしな目的のためにここまで強力な動力が設計されたと想定するのは、あまりにも馬鹿げていました。壁は木製でしたが、床には大きな鉄の溝があり、調べてみると、その全面に金属の沈着物がかさぶたのように残っているのが見えました。私が身をかがめて正確に何なのか確認しようと擦っていた時、ドイツ語でつぶやくような驚きの声が聞こえ、大佐のやせこけた顔が私を見下ろしていました」

「『そこで何をしているんだ?』大佐は聞きました」

「私は彼の非常に手の込んだ作り話によって騙されていた事に腹が立ちました。『あなたの活性白土に感心していたのです』私は言いました。『あなたの機械が何に使われるものか、正確な目的が分かればもっといい助言ができると思いますよ』」

「その言葉を言った瞬間、自分がいかに無分別だったかを後悔しました。大佐の顔は険しくなり、灰色の目が悪意に満ちてギラリと輝きました」

「『よかろう』大佐は言いました。『その機械の全てを教えてやる』大佐は後ろに一歩下がると、小さな扉を叩きつけるように閉め、鍵を回して掛けました。私は扉に突進してハンドルを引っ張りました。しかしそれは極めて頑丈で、蹴っても押してもびくともしません。『おい!』私は叫びました。『おい!大佐!出してくれ』」

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「突然、静寂の中で、音が聞こえ、私は口から心臓が飛び出そうになりました。それはレバーがカチャリといい、ピストンからシューと漏れる音でした。大佐は動力を入れたのです。ランプはまだ窪みを調べた場所の床に置かれていました。その光で、黒い天井が私に向かってきしみながらゆっくりと下りてくるのが見えました。その圧力は、私を一分でぐちゃぐちゃにして、何の形も残さないほどのものだということは、誰よりもよく分かっていました。私は叫びながら、ドアに向かって体当たりし、鍵穴を爪で引っかきました。大佐に出してくれるように頼みましたが、情け容赦なくガチャガチャ動かすレバーの音に私の声はかき消されました。天井は私の頭の1,2フィートくらいの所まで下りてきて、手を上げると堅いざらざらした表面に触る事が出来ました。その時私の心に、潰されるときの姿勢で死の痛みが大きく変わるのではないかという考えがよぎりました。もし顔を下にして横たわれば、背骨の上に加重がかかり、凄惨にバキッと折れるはずだと考えると震えが起きました。もしかしたら、反対の方が楽かもしれない。しかし仰向けに横たわって、のし掛かってくる黒い影を震えながら見上げているという神経が私にあるだろうか。すでに私は真っ直ぐ立っていられませんでした。その時、ある物を目にして、私の心にさっと希望が沸きました」