初日の朝の捜査は、ほとんど成果があがらなかった。しかし、のっけから起きた出来事で私は言いようもなく不吉な気持ちになった。惨劇が起きた場所に向かう道は、狭く曲がりくねった田舎道だった。その道に沿って歩いていると、こちらにやってくる馬車の音が聞こえたので、脇によけて馬車を通した。馬車が目の前を通り過ぎる時、閉じた窓越しにおそろしくゆがんで歯をむき出しにした顔がこちらを睨みつけているのがちらりと見えた。このぎらぎらした目とむき出しの歯は恐ろしい幻影のように、さっと通り過ぎて行った。
「兄たちです!」モーティマー・トレゲニスは唇まで真っ青になって叫んだ。「ヘルストンに連れて行かれるところだ」
私たちは黒い馬車が道を揺られていくのを恐怖の眼差しで見送った。それから、あの二人が奇妙な運命をむかえた不吉な家へと歩いていった。
田舎家というよりも邸宅に近い、大きく明るい家だった。広大な庭はすでに、コーンウォールの空気の中、春の花で覆われていた。正面の居間の窓はこの庭に面していた。モーティマー・トレゲニスの考えによれば、そこから魔物が入ったに違いなかった。そして、その魔物が完全な恐怖で一瞬のうちに彼らの心を吹き飛ばしたらしい。ホームズは玄関ポーチに着くまで花壇の間を抜け小道に沿って考え深げにゆっくりと歩いていた。彼は自分の考えにのめりこんでいてジョウロをひっくり返し、中の水をぶちまけて我々の足と小道をびしょぬれにした。家の中で年配のコーンウォールの家政婦のポーター夫人と会った。彼女は、若い女性の手を借りて、家族の面倒を見ていた。ポーター夫人はホームズの質問すべてによどみなく答えた。夜の間には何も聞かなかった。彼女の雇い主たちはここのところ、全員上機嫌でこれ以上に楽しく羽振りがいいのは見たことがなかった。朝になって部屋に入り、恐ろしい一群がテーブルを囲んでいるのを見た時、恐怖で失神した。意識を取り戻した時、窓をさっと開けて朝の空気を入れ、芝生に駆け出し、農場の少年に医者を呼びにやらせた。もしご覧になりたければ女性は上の階のベッドにいる。精神病院行きの馬車に兄たちを乗せるのは屈強な男四人がかりだった。この家にもう一日もいるつもりはなく、この日の午後にセント・アイブズの家族の元に出発するつもりだ。
我々は階段を上がり検死をした。ミス・ブレンダ・トレゲニスは中年に差し掛かる頃だったが非常に美しい女性だった。死んだ後でも、彼女の黒髪の端正な顔立ちは美しかった。しかし顔にはまだ恐怖の発作のようなものが残っていた。それは彼女の最期の人間としての感情だった。彼女の寝室から我々はこの奇妙な惨劇が実際に起きた居間に降りた。夜通し燃えつづけた暖炉の燃えのこりが火格子の中にあった。テーブルの上には、蝋がたれて燃え尽きた四本のロウソクと、カードが一面に散らばっていた。椅子は壁に向かって下げられていたが、それ以外は全部昨夜のままだった。ホームズは軽々とした早足で部屋の中を歩き回り、それぞれの椅子に座り、引っ張ってきて元の位置に戻した。彼は庭がどれくらい見通せるかを確かめ、床を調べ、天井、暖炉を調べた。しかし彼の目が突然輝き、唇がかみ締められる場面は、全く見られなかった。もし、それがあればホームズがこの完全な暗闇に光を見出した事が私には分かったはずだった。
「なぜ暖炉を使ったんですか?」彼は一度質問をした。「春の夜なのに、この狭い部屋でいつも暖炉に火を入れていたんですか?」
モーティマー・トレゲニスが昨夜は寒くて湿度が高かったと説明した。そのために、彼が到着後、暖炉に火を入れたということだ。「これからどうするつもりですか?ホームズさん」彼が尋ねた。
ホームズは笑顔で私の腕に手を置いた。「ワトソン、僕は君がよく真っ当な理由をあげて非難してきた煙草の毒を吸う習慣に戻ろうと思う」彼は言った。「皆さん、ここで私たちが新しい情報を得ることができるかどうか分かりませんので、これから家に戻ることにします。私は事実関係をじっくりと考え、そして何か思いつけばトレゲニスさん、必ずあなたと司祭に連絡します。それまでの間、これで失礼します」