ホームズと私が公道の道端に馬車を止め、ぶな屋敷に到着したのは、約束通りちょうど七時だった。もし、ハンター嬢が戸口に立って微笑んでいなかったとしても、夕陽に暗い色の葉がつやつやした金属のように輝く木々を見れば、どこがその屋敷かは一目瞭然だった。
「うまく行きましたか?」ホームズが訊いた。
階下のどこかから、大きなドンドンという音が聞こえてきた。「あれはトーラー夫人が地下室を叩いている音です」ハンター嬢は言った。「トーラーは台所の絨毯の上でいびきをかいて寝ています。ここに鍵束があります。これはルーカッスルさんの鍵の複製です」
「本当によくやってくれました!」ホームズは興奮して叫んだ。「さあ案内してください。この邪悪な行いの結末をすぐに見届けられるでしょう」
我々は階段を上がり、ドアを開け、廊下を進んだ、そしてハンター嬢が説明したバリケードの前に来た。ホームズは紐を切って封鎖に使われた棒を取り除いた。それから色々な鍵を鍵穴に入れて試したがどれも合わなかった。中からは何の音もしなかった。この静けさにホームズの顔が曇った。
「手遅れでないことを信じているが」ホームズは言った。「ハンターさん、あなたは離れていた方がよさそうだ。さあ、ワトソン、君の肩をそちらに。二人で開けられないかやってみよう」
扉はボロボロで、二人で力をかけるとすぐに壊れた。私達は一緒に部屋に飛び込んだ。中は空だった。粗末なベッド、小さなテーブル、カゴ一杯のシーツ以外に家具は無かった。頭上の天窓が開いていて、閉じ込められていた人間の姿はなかった。
「何かここでよからぬ事が起きたな」ホームズは言った。「あの悪党がハンターさんの意図を察して、娘をどこかに連れ出したんだ」
「しかしどうやって?」
「天窓を通ってだ。どうすれば出られるかすぐに分かる」ホームズは飛びついて屋根の上に上がった。「その通りだ」ホームズは叫んだ。「樋に立て掛けられた簡易梯子の端がここにある。これでどうやったか分かったぞ」
「でもそれは不可能です」ハンター嬢が言った。「ルーカッスルさんが出て行った時、そこにハシゴはかかっていませんでした」
「戻って来てやったんだ。ずる賢くて危険な男と言っただろう。今階段から聞こえてくるのが奴の足音でも、それほど不思議はないな。ワトソン、そろそろ拳銃を用意しておいた方がいい頃だ」
その言葉がホームズの口から出るや否や、でっぷり太った大きな男が重いステッキを手に部屋の戸口に現れた。ハンター嬢は叫び声を上げて、壁に向かって縮こまった。しかしホームズはルーカッスルの姿を見て飛び出すと、向かい合った。
「この悪党が!」ホームズは言った。「お前の娘をどこへやった?」
太った男は辺りに目をやって、開いている天窓を見上げた。
「聞きたいのはこっちの方だ」ルーカッスルは叫んだ。「このこそ泥!スパイのこそ泥、捕まえたぞ、俺の力を知らんな。思い知らせてやる」ルーカッスルは振り返ると、あらん限りの激しさで階段をドスドスと降りていった。