コンプリート・シャーロック・ホームズ
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細い田舎道を馬車で二マイル行くと、敷地の門まで来た。それを歳とった門番が開けて、我々を通してくれた。その疲れ果てた顔には何か恐ろしい災難の影があった。並木道は堂々とした私園を通り、古いニレの並木の間を続いていた。そして突き当たりに、パラディーオを真似た柱を正面に立てた背の低い広い家があった。中央の部分は非常に古いようで、ツタに覆われている。しかし大きな窓は最近改築されたことを示している。そして一つの棟は完全に新しいもののようだった。若々しい体つきと機敏で熱心な顔をしたスタンレー・ホプキンズ警部が、開け放たれた戸口で出迎えた。

「来てくださって本当に嬉しいです、ホームズさん。そしてあなたも、ワトソン博士。しかし実は、もしやり直しができるのでしたら、あなたを煩わせたりしなかったと思います。女性が意識を取り戻して、この事件について非常に明快な供述をしたので、我々がすることはほとんど残っていません。ルーイシャムの強盗団のことは覚えているでしょう?」

「何、ランドール家の三人か?」

「その通りです。父と息子二人です。これは彼らの仕事です。間違いありません。こいつらは二週間前にシデナムで強盗をして目撃され、人相も分かっています。こんなに間をあけずに、こんなに近くでもう一度やるというのは、かなり大胆です。しかし絶対に奴らです。今度は縛り首ものです」

「では、ユースタス卿は死んだんだな?」

「ええ、彼は自宅の火掻き棒で頭を潰されました」

「ユースタス・ブラッケンストール卿だな。御者が僕にそう言った」

「その通りです、 ―― ケント州で一番豊かな人間の一人です ―― 、ブラッケンストール夫人は居間にいます。可哀そうな女性です。彼女はものすごく恐ろしい経験をしました。私が最初に見たとき半分死人のようでした。彼女に会って事実関係の供述をお聞きになるのが一番だと思います。その後、一緒に食堂を調べましょう」

ブラッケンストール夫人は並外れた女性だった。これほど上品な体つき、女性的な態度、そして美しい顔はほとんど見たことがなかった。彼女は金髪に青い目をしたブロンドだった。そして直前の経験が彼女をやつれさせていなければ、間違いなくこれらの色と完全に調和する肌の色をしていた。彼女は精神面だけではなく肉体面でも被害を受け、片方の目の上に恐ろしい紫色のコブができていた。それを背の高い厳しいメイドが、熱心に酢水に浸していた。女性は疲れ果てて長椅子に横たわっていた。しかし我々が部屋に入った時、彼女は素早く鋭い視線を走らせ、美しい顔に警戒したような表情を浮かべたので、彼女の思考力も勇気も、恐ろしい体験によって打撃を受けていない事が分かった。彼女は青と銀のゆったりしたガウンに身を包んでいた。しかし黒いスパンコールがちりばめられたディナードレスが、彼女の脇のソファーの上に置かれていた。

「起きた事はすべてあなたにお話しました、ホプキンズさん」彼女はうんざりしたように言った。「私の代わりにあなたからお話できません?そうですか、それが必要とお考えなら、起きた事をこちらの紳士にお話しましょう。食堂にはもう行きましたか?」

「奥様の話を先に伺うのがよいと思いまして」

「事件を解決できれば幸いです。主人がまだあそこに横たわっていると思うと恐ろしくて」彼女は身震いし両手に顔をうずめた。彼女がそうした時、ゆるいガウンの袖が腕から落ちた。ホームズは驚きの声をあげた。

「別の傷もありますね、奥さん!それは何です?」二つの鮮やかな赤い点が片手の白く丸い腕から浮き上がっていた。彼女は慌ててそれを隠した。