コンプリート・シャーロック・ホームズ
ホーム長編緋色の研究四つの署名バスカヴィル家の犬恐怖の谷短編シャーロック・ホームズの冒険シャーロック・ホームズの回想シャーロック・ホームズの帰還最後の挨拶 シャーロック・ホームズの事件簿

「喜んで調査して出来る限りの助言を致しましょう」ホームズは椅子から立ち上がってコートを着ながら言った。「この事件は全く面白くないわけでもない。その試験用紙があなたの所に届いてから、誰かあなたの部屋を訪ねた人がいますか?」

「ええ、同じ階に住んでいるインド人学生のダウラット・ラス青年が試験について詳細を確認するためにやって来ました」

「そのために部屋に入ったのですね?」

「ええ」

「机の上に試験用紙は?」

「私の知る限りでは、巻いてあったと思います」

「しかし、校正刷りだと分かったかもしれないですか?」

「可能性はあります」

「他には誰も部屋に入っていませんか?」

「ええ」

「校正刷りがそこにある事を知っていたものはいますか?」

「印刷工以外はおりません」

「バニスターという男は知っていましたか?」

「いいえ、もちろん知りません。誰も知りませんでした」

「今、バニスターはどこに?」

「彼は非常に調子が悪くなりました。可哀想な男です。私はあなたのところに来るのに非常に急いでいたので、彼が椅子に倒れ込んだのをそのままにしてきました」

「扉を開けたまま出て来たのですか?」

「まず書類を鍵のかかる所にしまいました」

「では、ソームズさん。インド人学生がその巻物が校正刷りだと気付かないかぎり、それをいじった人間は、そこにあると知らずにたまたま出くわしたということですね」

「私にはそう思えます」

ホームズは謎めいた微笑みを浮かべた。

「では」彼は言った。「出かけましょう。君の事件じゃないよ、ワトソン、 ―― 知性的なもので、肉体的なものじゃない。いいだろう、来たいと言うなら来ればいい。さあ、ソームズさん、 ―― これでお望み通りですな!」