コンプリート・シャーロック・ホームズ
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訪問者はホームズにちょっと苛立っており、彼のふくよかな顔はとても好意的とはいえない表情を浮かべていた。

「ちょっとご辛抱下さい!ガリデブさん!」ホームズはなだめるような声で言った。「ワトソン博士が説明してくれるでしょうが、私のこういうちょっとした脱線が、結果的に事件と何らかの関係を持っていたと判明する場合もあるのです。しかしなぜ、ネイサン・ガリデブ氏はあなたと一緒に来なかったんですか?」

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「そもそもなぜ彼はあなたをこの件に引きずり込んだんでしょう?」訪問者は突然怒りの炎を燃え上がらせて尋ねた。「いったいあなたがこの件で何が出来るといういうのです?これは二人の紳士の間のちょっとした職業上の取引です。それなのにその片方が探偵を招き入れる必要があるとは!私は今朝彼と会いました。その時、彼は私にこの馬鹿な真似をした事を話しました。だから私はここに来たのです。しかし、それでも私はいい気持ちはしません」

「あなたに対して悪意を持っているわけではありません、ガリデブさん。これは単に彼が成果を得たいという熱意の表れです。私の聞いているところでは、その成果というのは、あなた方のどちらにとっても同じように重要です。彼は私が情報通だという事を知っていました。だから私に依頼するのは非常に自然なことです」

訪問者の顔から徐々に怒りの色が消えて行った。

「まあ、それなら話は別です」彼は言った。「私が今朝会いに行った時、彼が探偵に連絡したと言ったので、あなたの住所を聞いてすぐにここに来ました。個人的な件に警察が介入するのは望みません。しかしもしあなたが人を探す手助けするだけで十分なら、何も問題になるようなことはありません」

「ええ、そういう状況なのです」ホームズが言った。「それでは、せっかくここにいらしたのですから、あなた自身の口からはっきりしたお話を聞くのが一番です。ここにいる私の友人は詳しい事を何も知りません」

ガリデブ氏は胡散臭そうな目つきで探るように私を見た。

「彼も知る必要がありますか?」彼は尋ねた。

「私達は普段一緒に仕事をしています」

「まあ、秘密にしておかねばならない理由はありません。出来る限り簡潔に事実関係を説明しましょう。もしあなたがカンザス出身なら、アレキサンダー・ハミルトン・ガリデブがどういう人間かを説明する必要はないと思います。彼は最初は不動産で、その後はシカゴの小麦取引で金を儲けました。しかし彼はその金であなた方の一州に匹敵するほどの土地を買いました。フォートドッジ西方のアーカンソー河沿いの土地です。そこには、放牧地、森林地帯、耕地、鉱山など、あらゆる種類の土地があり、それで現金収入が得られます」

「彼には親類縁者がいません、 ―― 少なくとも、いるかどうか耳にしたことがありません。しかし彼は自分の奇妙な名前に誇りのようなものを持っていました。それで私達が会うことになったのです。私はトピーカで法律関係の仕事をしていましたが、ある日私の元に老人が尋ねてきました。彼は自分と同じ名前の人間に会えて大喜びでした。彼は独特の情熱を持つ人間でしたが、世界中に他にもガリデブの名前の人間がいるかどうか見つける事を固く決心しました。『もう一人見つけてくれ!』彼は言いました。私は彼に、自分は忙しい身なので、ガリデブを探して世界中を歩き回るのに時間を費やすことは出来ないと言いました。『それでもだ』彼は言いました。『私の計画が上手く行けば君はそうすることになるだろう』私は彼が冗談を言っていると思いました。しかし彼は完全に本気で言っていたのです。私はまもなくそれに気づきました」

「彼はこの話をした後一年と経たずに死にました。そして彼は遺言を遺しました。これはカンザス州に提出された中で最も奇妙な遺言でした。彼の財産は三つに分割され、あと二人ガリデブを見つけるという条件でその一つを私が受け取れます。一人当たり現金にして500万ドルになります。しかし3人そろうまで誰も全く手をつけることが出来ません」

「これは大変なビッグチャンスでした。私は弁護士の仕事をほったらかして、ガリデブ探しに出かけました。アメリカには一人もいませんでした。私は本当に目を血眼にして調べましたが一人のガリデブも見つけることは出来ませんでした。その後私は、母国を調べました。思ったとおりロンドンの電話帳にその名前がありました。私は二日前に彼をつかまえて全ての事を彼に説明しました。しかし彼は私と同じく独身者でした。女性の親類は何人かいますが、男はいませんでした。遺言では三人の成人男子と決められています。だからまだ後もう一人が必要なのはお分かりでしょう。そしてもしあなたにその穴を埋める手助けが出来るのなら、私たちは、喜んで報酬をお支払いする用意があります」

「どうだ、ワトソン」ホームズはにやりとして言った。「ちょっと風変わりだと言っただろう?私の考えでは、当然新聞の身の上相談欄に広告を出すべきだったのではないですか」

「それは出しました、ホームズさん。返事はありませんでした」

「おやおや!ふむ、これは確かに興味ある問題ですね。暇なときにでも調べて見ましょう。ところで、トピーカから来られたというのは面白いですね。以前文通していた相手がいました。もう亡くなりましたが、1890年に市長をしていたリュサンドロス・スター博士です」

「スター博士ですか!」訪問者が言った。「彼の名前は今でも誇りです。さて、ホームズさん。我々に出来ることといえばあなたに進捗状況を報告することくらいだと思います。一日か、二日以内に連絡があると思います」こう約束してアメリカ人はお辞儀をして出て行った。